音楽に寄せて 

街のピアノ講師が日々思っていることを綴ります

『舟歌』の思い出と、憧れと

ショパンの『舟歌 作品60 嬰ヘ長調

 

好きなピアノ曲はたくさんありますが、

あらゆるピアノ曲の中でも、私にとって上位に位置するほど大好きな曲のひとつです。

 

 

これは大学の卒業試験で弾きました。

 

当時師事していた先生に何度もお願いして、ようやく念願叶って弾くことを許された曲。

 

 

舟歌』との出会いは15,6歳の頃だったと思います。

 

母の妹(私の叔母)が、近所に住んでいるというあるピアニストの方からCDをもらったというのです。

私がピアノをやっているからと、私の分まで頂いて。

 

ピアニストの方の名前は、大竹淳子さん。

偶然にも、私と同じ字です。

 

CDはオールショパンプログラムで、

曲はマズルカノクターン、ワルツなど。

他にはバラード4番なども。

その中に『舟歌』はありました。

 

初めて聴いたときから心奪われました。

 

曲の冒頭から引き込まれて。。

左手のたゆたうような舟歌のリズムにのって、右手で歌われる旋律の美しいこと。

嬰ヘ長調という調性ながら、どこかもの悲しく陰のある曲調が魅力的です。

華やかさと繊細さと、ショパンの音楽の魅力がぎゅっと詰まったような曲。

ショパン晩年の作品であり、もっとも苦しいときに作曲された曲のひとつです。

 

夢中になって聴いて、「いつか弾いてみたい!」と思いました。

 

 

 

音大に進み、2年になったとき。

 

私の母校は、ピアノ専攻学生は、2,3年次の前期試験で公開形式の試験があります。

成績はつかなくて、でも通らないと後期試験を受けることができないという、

後期試験を受けるための切符のようなものです。

伝統的な試験で、服装も決まっていて。

公開形式なので、同級生や先輩後輩、家族、はたまた大学の近所に住む音楽好きな方など、いろいろな人が聴きにきます。

(今はコロナで少し制限があるかもしれません)

 

試験なので、審査の先生方は何人もいます(10人くらい?)

 

その2年次のとき、ダメ元で「ショパン舟歌を弾きたいです」と担当の先生に言ってみました。

案の定、即却下。。

この時は、自分でもわかっていたのですぐ諦めることができました。

 

ちなみに、2年生のときに試験で弾いた曲は

ショパンマズルカ7番と即興曲2番。

先生が選んでくださって、2番の即興曲舟歌と同じ嬰ヘ長調です。

 

曲の後半、右手が32分音符を19小節もずっと弾いていなければならず、

速いパッセージが苦手だった私は、なかなか大変でした。

曲は好きなんですけどね。

 

 

3年に進級し、試験の曲決めのときがきました。

 

今度こそと、先生に言いました。

ショパン舟歌を弾きたいです」

 

でも、やはりだめで。。

 

音楽的にも技術的にも非常に難しいのと、

二重トリルがあるので、指がふにゃふにゃで弱い私には無理だろう、とのこと。

 

この時は悔しかったですね。。

ショパン舟歌が弾きたくてたまらなかったから。

 

3年次の曲選びは少し難航しました。

先生が、私に合いそうな曲をいろいろと選んでくださったのですが、

実際に弾いてみるとどこかしっくりこなく、試験で弾きたいと思えない。。

シューベルトソナタラフマニノフのプレリュードなど、

いろいろ曲を譜読みしてはレッスン、の繰り返しが続きました。

 

舟歌が弾けない悔しさから、自分が心から好きで弾きたいと思う曲を弾きたかったのです。

 

 

しっくりこないものを練習してもいい演奏はできないと思い、

自分でいろいろ探した結果、、

 

ショパンノクターン7,8番に決定。

 

たぶん、ショパンが弾きたかったのだと思います。

 

この2つのノクターンは今でも大好きな曲です。

8番が単独で演奏されることが多いですが、

7番から8番へのつながりが好きなので、やはり2つセットでが理想かな。

8番は3度の連続が弾きにくかったですが、

自分なりに曲と向き合ったおかげか、担当の先生以外にも、

尊敬するある先生からも嬉しい講評を頂いて、

思い出の曲となっています。

 

そして、4年になりました。

 

私は教育実習や卒論などがあったので、早めに卒試の曲決め。

 

3度目の正直とばかりにまたまた先生に言いました。

 

ショパン舟歌を弾きたいです」

 

さすがにこの時は言われました。

「あなたって頑固ね(笑)」と・・・・・(笑)

 

 

でも、大学最後の試験だし、ホールで弾けます。

そんなに弾きたいならと、ようやく許しをもらえました。ほっ・・

 

嬉しかったです、とても。

 

それまでも譜読みは自分でしていましたが、

改めて、夢中になって譜読みをしました。

 

それに、二重トリルは、実は密かに練習をしていて、

「これができれば舟歌を弾けるんだ」と思っていたので、

普段の練習の中でときどきやっていたのです。

最初は歯が立たなかったけど、

少しずつトリルができるようになって、

いまでは二重トリル、結構得意です。

成せばなる、ですね。

 

 

とにかくいろいろな人の演奏を聴いて、

自分がどう弾きたいのか、何度も何度も頭の中でイメージを作りあげていきました。

 

迎えた卒業試験はやはり公開式で、これまでにないくらいひどい緊張で、

試験の前も終わった後も何も食べられないほどでした。

そんな中でもその時の自分なりの舟歌を演奏することができたと思っています。

 

この時はクラスメイト全員の前で演奏していて、終わった後、

友人たちからいろいろと嬉しい言葉をかけてもらったのをよく覚えています。

 

 

ショパン舟歌はその後も何度か弾いています。

でも、実は私としては未だに納得できる演奏ができたことがないのです。

 

 

大学時代に師事していた先生がおっしゃていたように、

音楽的に深く高度で、音楽的な内容と技術を一体化させて表現する、というのが本当に難しい。

 

ショパンの曲は、難しい曲というのは他にもありますが(バラードやスケルツォソナタなど)、

上記の点において舟歌は、ショパンの曲の中でも難曲のひとつと個人的には思っています。

マズルカも、技術的にはそんなに難しくないけど、表現という点では非常に難しいですね。)

 

 

 

そういうわけで、私にとってショパンの『舟歌』は、いまだに憧れの曲なのです。

 

 

いつか、一度でもいいから自分で納得できる演奏ができるようになりたいと思っています。

でも、もしできなくても、憧れのままでもいいのかもしれない、とも思っています。

 

それよりも、こんなに夢中になってひとつの曲と向き合ったことが、

私のピアノ人生の宝物のひとつとなっているのです。

幸せなことだと感じています。

 

 

ショパンの『舟歌』への憧れは続く・・

 

 

 

ラファウ・ブレハッチの『舟歌