ピアノを習い始めて最初の数年間は、進みはかなりゆっくりでいいと思います。
日本の場合、音をどんどん読ませたり難しい曲をどんどん弾かせてしまう傾向がいまだに根強いですが、そうしたレッスンを受け続けると、遅かれ早かれ壁にぶつかります。
また、指の強化と称して指がよく動くように短期間で集中的に指を動かす練習をさせることも同じです。
これは一見効果があるように見えますが、ほとんどの場合、「その時だけ」です。
つまり、本質的な力が身についていないということです。
もともと音に対して感性の鋭い子ほど、こうしたレッスンを受け続けると、「自分が本当に出したい音が出せない」とピアノを途中でやめてしまう場合が意外と多くあるように思います。
せっかくピアノが好きなのに、気の毒で仕方ありません。。。
本当の意味でピアノが弾けるようになるには、じっくり時間をかける必要があります。
でも、多くの人が思い違いをしていたり、ハノンやツェルニーをやれば指が動くようになってピアノが上達するのだと思い込んでいます。
生徒さん側だけでなく、先生側もそうです。
これは、「みんなやっているから」ということが考えられますし、
先生側は「自分がそのような教育を受けてきたから」ということも考えられます。
さらに、生徒を集めるために「ピアノは気軽に弾けるもの」などといった宣伝をしてしまうために、習う人も「気軽に」始めてしまうのでしょう。
私は、多くの人にピアノを楽しんで弾いてもらいたいと思っています。
私自身がピアノが好きだし、ピアノの音が好きだからです。
こんなに素敵な楽器はないと思っているし、多くの人にその魅力を伝えたいと思っています。
でも、そこに行くまでには結構時間がかかるんだよ、「本当に美しい音」が出せるようになるにはじっくり時間をかけて筋肉を育てていく必要があるんだよ、そして美しい音とそうでない音を聞き分ける耳を育てることもまた大切なことなんだよと言いたい。
前回の記事でも書きましたが、今の日本のピアノ教育の質のままだと、聴衆が育ちません。
そしてそれは、真に才能豊かなピアニストたちの演奏が正しく評価されないままだということです。
表面的な技巧ばかりが評価され、実は演奏家たちも自分が本当は出したい音ではない音で演奏している場合が多くあるのです。
聴衆が求めている音と、ピアニストが表現したい音が違うので、モヤモヤしながら弾いているそうです。
そしてそれは、日本の場合特に顕著でしょう。
これは、私たちピアノ教師の責任でもありますね・・・
なんでも「早く」できるようになることが良いとは限りません。
ピアノはむしろ、じっくり時間がかかるもの。
そうして、時間をかけて、楽譜に書かれているひとつ一つの音の意味を耳と心で、全身で味わってください。
昔のやり方からは、もういい加減脱しなければなりません。